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徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。
と手早く切り上げて、堂本の家を出た。
「やあ、おいでなさい。わたし、相沢です」
その様子が房一に余裕を持たせた。彼は東京の代診時代に覚えた世間慣れた快げな微笑を浮かべることさへできた。
この時、練吉が又小耳にはさんで訊き返した。が、明かにそれはさつきの小耳訊きとは様子がちがつていた。殆ど一人で盃を傾けていたせいもあるが、つい今まで沈んでいた練吉は僅かの間に一足とびに深い酔の中に入りこんでいた。
「お松ですか?お松は半之丞の子を生んでから、……」
「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。
房一は、これは煩うるさい相手だなと思ひながら、わざとゆつくり構へていた。実は、さつき裏口から二人を見かけた時に、すでにぴんと感じていた。こんな風体の連中は河原町には他にない。それに、今しがた川岸で話に出たばかりの所だつたので、房一にはよけい強く頭に来た。
男は面喰つて何を云はれているかはつきり判らないらしかつた。房一はその眼の中をしつかりとのぞきこみながらつゞけた。病院づとめの生活で、房一は患者の気持をのみこんでいた。たとへ病気がはつきりしなくても正直にありのまゝを云ふのは禁物だつた。病人は何か断定を欲するものだ。今の場合は別だが、十二指腸虫といふ名前さへろくに知らないこの男に、いきなりその病源を云つたところで疑はしく思ふのは明かだつた。
又走り出して、草の中に鼻を突つこんだ。が、今度はすぐもどつて来た。房一は緊張した表情をつくつて、その背をつかんでぐつと押した。
「それで、――どうかね?」
彼は近来今日ほど熱心に注意深く患者を診たことはなかつた。今までは単に顔見知りだといふにすぎなかつた高間道平といふ一介の老人、しなびた、日焼けのした肉体を、たゞそれだけでない、ふしぎと一脈のつながりあるものとして見た。それは又、この紅黒い、むくむくした房一にもつながつているものだつた。そのどこから来たとも知れない、ぐつと身体を近づけたやうな親しさを、今、練吉は隣りを歩いている房一に感じていた。
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